私の趣味の一つは甲子園で開催される全国高校野球選手権大会の観戦です。都合があえば夏の甲子園に向かい、野球帽、Tシャツ、短パン姿で一日中観戦します。特定のチームへのこだわりはなく試合そのものを楽しみます。試合以外にもベンチ、観客席、球場全体の雰囲気など、見て感じ楽しむことに事欠きません。その中で最近、興味をもって観察しているのは、監督さんの表情、態度です。ゲーム展開に一喜一憂する監督、腕を組んで常に厳しい表情を崩さない監督、選手のミスに悔しがる監督、作戦が見事はまりしてやったり顔の監督、いつも穏やかな表情で見守る監督、円陣を組んで事細かく指示を出す監督、と様々です。選手が実に楽しそうに野球をしていて、試合終盤で4、5点負けていても選手の眼光が違う、事実そのようなチームは高率に逆転し、あるいは接戦に持ち込むことが多く、期待を抱かせるような何とも言えない雰囲気を醸し出しています。そして、そのような展開の時の監督さんはとてもいい顔をして指揮を執っていらっしゃいます。つまり「監督がいい顔でグラウンドに立っているチームは雰囲気がいい」のです。相手は高校生、純粋に勝ちたい、いい勝負をしたい、そうした子供達の気持ちを存分に発揮させられるのも、監督さん次第なのかと思います。毎年チームのレベルがかわる高校野球では、そのシーズンの選手層をみたうえで、戦略をたて、ビジョンを示し、志を説いて、わずか数か月でチームを作り、育て、そして夢の甲子園という大舞台に選手をたたせます。おそらく気配りは選手のみでなく、親、学校にもきめ細かくされているに違いありません。
写真:聖医大整形外科 精鋭野球チーム
そして今、大学教室内での自分の立場を振り返ってみると、まさしく同じ事が言えるのではないかと思うようになりました。高校野球とは諸事情が異なりますが、医局が一つの目標に向かう気持ちに変わりはありません。その中でチームを引っ張っていくべき立場の人の影響力は計り知れないものと思います。組織の空気を作るのは指導者自身。指導者は時代の変化を見極めて、わかりやすい目標を示し、その達成までの戦略を立て、実現のために縁の下で汗をかく人も含めて組織を動かします。もちろんこうした指導力を培うには時間と経験も欠かせませんが、自分を含めて「好きなことにチームで取り組んでいる」という一体感をもてたら、たくましく爽やかな「戦う集団」になれるのではないでしょうか。
英国の教育学者ウィリアム・アーサー・ワードは「良い先生はかみ砕いて教える。優れた先生は考えさせる。偉大な先生は心に火をつける」という言葉を残しました。外来、手術、回診、講義、カンファレンス、学会、など自分のグラウンドでいい顔で立ち、一人でも多くの医局員、学生の心に火をつけられるよう努力していく所存です。
文責 仁木久照
金原出版 整形・災害外科 2015年09月号(58巻 10号)「Personal view」への寄稿より